水面から頭を出し

ジャスのBGMの音量があまり届かないバーカウンターの片隅で、マスターを相手に人生も半ばを過ぎた中年男が、このところ、その人生も少し狂いかけていることに対して一人ごちていた。

まだそんなに呑んでいるわけでもないが、今日はペースが速い。そして、男の呂律がすでに怪しくなっていることを、マスターは感じていた。

「もう一杯、同じもの!」
男は、少しつっけんどんに、空になったグラスを突き出した矯正牙齒
「ハイ…」マスターは返事だけすると、いかつい氷の塊をアイスピックを使って器用に成型し始めた。準備する作業をいつもよりワンテンポづつ遅くするように心がけ、バーボンのダブルロックを
仕上げた美白去斑

マスターが作るロックには気品が溢れていた。濁りのない水晶のように…、球体となった氷が琥珀色の水面から頭を出し、ゆったりと回転しながら浮かんでいた。
氷がずっしりと重いクリスタルグラスにあたる音は、教会が奏でる鐘の音よりも神聖なものに聞こえた。それは周りの喧騒など飛んでしまうような心地いい音色だった。

今はしがないバーの経営者となっているマスターだが、若いころからバーテンダーの世界大会で何度も優勝し、世界の一流ホテルのバーを渡り歩いた。帰国してからも、やはり一流ホテルのバーで
長い間勤め上げた。
世界の要人やハリウッドスターが来日したときは、必ずといっていいほどマスターのいるバーに足を運び、マスターと語らいながら静かな時間を過ごした。
人の愚痴を聞くことも仕事のうちだった。客の話を聞きながら、いつの間にか魔法のように最高の飲み物を作り上げてしまう。そんなことをもう数えきれないほどこなしてきた。
そしてマスターは、腕のいい心理カウンセラーに引けを取らないほど、自然と人の心に寄り添うことができる達人となっていた紐崔萊維他命